●連続小説「妄想バイオアトラクション」第2話●
トンネルを抜けると、岩の壁で囲まれた一本道に入っていた。
「すごい臨場感だねー」
「むしろ、この岩の壁、思いっきりアトラクション風味じゃないか?どこかで見たことあるような、このゴツゴツ感・・・」
「これって、もしや」
ゴロゴロ・・・・!巨大な岩が頭上を転がっていく!
「インディージョーンズ!」思わず声を揃えて口走る。
「さすがに、お客様を岩でつぶそうとはしないよね」
「雰囲気。雰囲気。」
巨大な岩は、頭上を一旦通り過ぎると、一旦消えて、また頭上を通っていく。
どんな仕組みなんだろう?
・・・そう思うのもつかの間、気がつくと、足元の感触がフワリとした絨毯を捉えた。
「赤い!」「赤い絨毯!」「憧れの、セレブ絨毯!」
不気味ながらも自然物に囲まれた世界から、一気に人工的な空間へ包み込まれた。
と同時に、般若心経のような、男たちの不気味で低い声が轟き始める。
「ぎゃーてーぎゃーてー」「はらぎゃーてー・・・」
私たちは、ちょっとふざけてはいたものの、なんとなくMちゃんの様子がいつもと違うことに気がついた。
「大丈夫?」
「・・・ん。」
ちょっと怖さを感じていた私は、ひそかにMちゃんを心の支えとしていた為に、口数少なくなってしまったMちゃんをどうしてよいか分からず、ふと不安に襲われてしまったのだった。
しかし、そんな気分を蹴散らすがごとく、明るい口調で話しかける。
「Mちゃ~ん。ココ、古城だね!やっと、ベリィが出せるところだよ!」
「んー・・・・」
さっきまで、勇ましく、たくましく、頼もしく、足取り力強かったMちゃん。どうした、Mちゃん!?・・・とは思いつつも、なるべく平常心を保とうと心がけていた。
(いつも頼ってばかりいて、ごめんね、Mちゃん。いつもと様子が違うけど・・・わたしがいるから!)そう思いながら
「お!赤服!これまた堅そーな生地・・・芸が細かい!」なるべく明るい口調で話しかける。
「んー。」
「赤服は等身大なのに、その他大勢さんは、遠くからこっち向いてるだけだねぇ」
村人たちの影絵と同じく、こちらもまた、遠近法をうまく利用したコストカット作戦なのだろう。
黙り続けるMちゃんだったが、そうこうしているうちに、このアトラクションもクライマックスに近づいてきているのを感じていた。
赤い絨毯と、般若心経と、赤服邪教徒と、遠くのその他大勢さんを見送りつつ、なにやらひんやりとした風が、向こうの方から吹いてくるのを感じた。と同時に、武器商人のコスチュームをまとったお兄さんたちが、次々と来るお客さん達を、なにやら乗物に誘導しているのが見て取れた。
「ゥ~ウェルカム!ってか?」
「まさかの武器商人!ここにいたか!」
「おお!スプラッシュマウンテン!」
「カリブの海賊!」
しばらく黙りこんでいたMちゃんも、思わず大きな声を挙げていた。
「すごーい!本格的やないかい!ここ、あの湖じゃないかい!?」
「巨大フィッシュが引っ張ってるのかなー」
「暗くてよく見えないや」
「伊達にお金とってないね」
このご時世である。某遊園地内でも、フリーパスで入れるわけではなかったのだった。特別施設としての、一風変わった公開だったのか、スポンサーが少なかったのか、大人の事情は定かではないが、1回につき1500円かかるアトラクションなのだ。いわば、約、映画1本分。気軽に、何も知らない、ホラー耐性がない人やお子様などが入ってしまうのを防ぐためだろうか?
始終、歩いて移動すると思い込んでいただけに、スプラッシュマウンテンばりの、水に浮かんだ船に乗ると分かった瞬間、テンションが一気に上がっていく。
まさかの豪華な乗物登場に、ここがド田舎の広大な敷地に建てられている、普通の遊園地であることを忘れていた。ディズニーランドに来ているかのようなワクワク感を感じ始めていた。
「バイオと言うより、完全バイオ4の世界だよ、こりゃ」
「ゾンビ、まだ1体も出てきてないね」
「でもアレも出てきてないね・・・寄生体!」
「絶対、檻の中にガラドールいると思ったけど・・・コストカットで登場なし、かな・・・」
「サラザールじぃさんもいないし、アシュリーもいないね」
「まさかのハニガン、ついに上半身だけじゃなく、場に似合わずスーツ姿の等身大で来るかなーなんて思ったけど」
「ブラックバスいるかな」
興奮のあまり、全然会話がかみ合っていなかった。お互いに、思ったことをただ口走っていた。
「けっこう人がいたんだね」
スプラッシュマウンテンばりの船搭乗待合広場で、次の船が来るのを、今か今かと待ち望んでいた。
<第3話に・・・続けられるか!?>
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