けれど、手に入れるのが難しいようなすごい食器ではありません。お惣菜や、水を入れるだけの、何気ない食器たちです。その時その場の直感で、「コレいい!」と思った瞬間に、たまたま手に入れたい情熱の炎の元に火がついただけなのです。
一度目は、会社の人たちとの飲み屋での歓送迎会にて。真っ青な色が印象的な小鉢から目が離せなくなり、酔っていたこともあってますます厚かましくなっていたのでしょうか。相当酔っ払っていたこの客(=私)は、食べ終わった後のこの小鉢を手に持ってレジ近くの店員さんを呼びつけました。
「この小鉢、使用済みので構わないので売ってくれませんか?」
真っ赤な顔して頼んでしまいました。一度目は、「申し訳ありませんが、売り物ではありませんので・・・」と断られたような気がします。このお店は、器にこだわりがあったようで、実際、ちょっと離れたところに、作家さんの写真とコメント付きで手作りの器が売られていたのです。
けれど、この時欲しかった器は、その作家さんの器ではありませんでした。このお店が独自に使っていた非売品の器だったのです。でも、血走った眼をしたこの酔っぱらいはあきらめませんでした。
「そこを何とか・・・。この525円で!!!」
そうです。確かこの日、そうとう気が緩んでいた私は、小銭525円(+数円)くらいしか持っていなかったのです。私にとってこの525円は、この日その場で最低限支払えるなけなしのお金でした。
(職場では月会費制で飲み会代はそこから払うため、この日お金持ってなくても飲めたのだ)
それでもまた2度目、店員に断られます。
「しかしお客様・・・この器自体、新品でも3千円以上致しますので・・・」
記憶をたどると、たしかこんな風に言われて断られたような気がします。けれどお酒の力で厚かましくなり果てていた私は、さらにめげずに堂々と交渉を続けます。
「何回も使用していて、何度も洗って使っている古いもので構いません!」
この酔っ払いを相手にするのに疲れたのか、店員も少し折れて、「店長に確認して参ります。少々お待ちください・・・」と言い残し、手のひらに525円の乗せた酔っ払いの私を待たせること5分10分。
「分かりましたお客様!525円でお売りいたします!!」
新品3千円以上の青い小鉢、525円で見事ゲット!!
(きっと千円札を手に持ってたら1050円でgetしていたに違いない。)
このときの私の、青い小鉢に対する異常な熱意は、後にも先にもこれが最初で最後と思われました・・・が、数ヶ月後、しばらくして、今度は遠く離れた札幌の旅先で出てきた、水を入れてくれる何気ない透明のガラスのコップが欲しくてたまらなくなりました。
場所は札幌郊外の温泉街、定山渓の翠蝶館(すいちょうかん)。
http://www.jyozankei-daiichi.co.jp/suichokan/総訪問数にして10回くらいは行っているかもしれない常連の宿でしたが、泊まったのは1回のみ。主に日帰りプラン、というプランで、岩盤浴とランチと温泉のセットに、札幌へ行くたび、札幌在住の友人と通いました。(一時期北海道ばっかり年に3回くらい行っていたのだ)
すると何回目からか、いつの日からか、水を入れてくれる透明なガラスのコップが変わったのです。このコップに今度は火がついてしまいました。
でもこのとき私はお酒を飲んでいませんでした。なので慎重に交渉に入ることになりました。加えて、訪れれば「いつもありがとうございます」とのお言葉を頂き、ほぼ常連客としての風格(?)を備えつつあったため、交渉に踏み切れたということも若干あるかもしれません。
「すみません。折り入ってお願いがあるのですが・・・」と交渉の第一段階に入ります。
「このガラスのコップを売っていただけませんか?」はい早速本題に突入です。
最初は少しびっくりなさっていた宿の方も、「少々お待ち下さい・・・」と席を外されました。案の定、「売り物ではございませんので、申し訳ありませんが、」と、一度目は断られてしまいました。
私はここで残念コールを続けます。ほんとうに残念で、残念で、自然と台詞が出てきてしまうので仕方なかったのです。
「ああ、とっても残念です。飲み口が厚くて、水を飲んだ時に、とても口当たりが優しくて良いですよね。・・・嗚呼・・・」
ため息交じりに語る客。きっと、変な人が来たもんだと宿の方を困らせてしまったことでしょう。
しかし、どうしても欲しかったため、せめて、どこのメーカーのものか、通販で買えるのか、など今度は質問攻めのコーナーに突入してしまう有様となりました。
きっと同伴していた友人はあっけにとられていたことでしょう。一人は地元の友人、一人は札幌に住んでいる友人。確か3人で訪れていたのです。
ガラスのコップがこんなに欲しくなるなんて。
この時期の私はどうかしていたのだと思います。一旦諦め、食事も終わり、さて温泉でもはいってくつろごうか、としていたその時!
「お客さま。こちらを。」
なんとガラスのコップを包んで下さり、ご丁寧にも紙の箱に入った状態で持ってきてくださったのです。1個1500円で譲って下さるとのこと。おお!それならば2つ頂きたいのですが、と、さらに交渉、3000円で2つgetです!
その場ではすぐに交渉できなくて落ち込んでいた所へ、まさかの提案。喜びは通常の買い物の2倍以上でした。
しかし、この年は、青い小鉢を無理やり手にいれたりと、少々血走っていた私です。今では絶対出来ないような、言えないような事を言ってしまいました。
「今後ももしかしたら、食器に目をつけたお客さんが欲しいと思われるかもしれないですね。食器をいくつかお売りになったら如何でしょう?」
おいおい、私は、何様のつもりなのですか?今の私なら、過去の私にガツンと言ってやりたいくらいです。しかし、言ってしまったものは仕方ない。このときの私は異常に食器万歳精神で成り立っていたのですから。
しかしその後、またその宿に行ったら、同じガラスのコップではありませんでしたが、宿の刻印のある陶器のマグカップなどが売られていました。この宿の熱烈ファンだった私は、なんだかちょこっと貢献できたような気がして嬉しかったのを覚えています。私のこのエピソードは全く関係ないにしても。
☆翠蝶館さま。この時は、ほんとうに無理を聞き入れて下さり、ありがとうございました。m(_ _)m☆
この宿のどこが素晴らしいか。一度だけ泊まった時、出てきた朝食をかつてケータイに収めた時の画像がこれです。
ジュースや牛乳の入ったガラスのコップ、まるで試験管みたいですね。けれど、食器だけでなく、食事の内容そのものもとても美味しく、盛り付けなどが、なんともオシャレで胸キュン度はかなりもの。
また日帰りプランで出てくるランチもこんな盛り付けで出てきます。
う~ん。和洋折衷でありながら、全体的にはアジアンテイストで、おしゃれな空間が広がった隠れ宿、といった感じでしょうか。男性だけのグループだと泊まれないルールがあり、女性同伴なら男性でも泊まれる、完全に女性向きの宿ですね。
また、無理言って売っていただいたガラスのコップはこちら。
画像で見ると、なんの変哲もないガラスのコップですが、飲み口に厚みがあるので、飲んでいてとても口に優しいのです。(この写真は中に水が入ってます。照明暗くて写りが悪い・・・ほんとはもっと素敵なコップです!)
売っていないものを買う。
・・・それには熱意と交渉が必要ですが、みなさまも、一度、チャレンジしてみてはいかが?
欲しいと思う非売品を交渉して購入する・・・。思わずしてしまった私の赤っ恥体験ではありましたが、意外に、買い物の原点を感じることができました。
値段が表示されたものをただ無言で買うのに慣れている現代人にとっては、値引き合戦以上に刺激的なことこの上なし。「交渉する」っていうところに原始的な何かを感じます。(原始的な何かって、何だろう。)
そんな私ですが、今は、食器よりプチ冒険に興味があるので、どこか、入れないところに交渉して入ってみたいなぁと思う、今日この頃です。(入れないところって、どこだろう。)